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まつもとあつしの日々徒然

はてなダイアリーからようやく移行しました

電子書籍ブームと動画ビジネスの黒字化

この記事は前回の続きです。

本書は、「電子書籍の立ち上がり」「黒字化した動画サイト3強」「ソーシャルメディアとポータルサービス」の大きく3つのテーマを扱っています。

なぜ、こういう構成になったかと言えば、たまたま取材を続けていたらそうなったから――ではなく(汗)、この3つのテーマはやはり関連性が高いと考えたからです。

2010年のITシーンは、電子書籍が大きく取り上げられましたが、個人的にはむしろこれまでずっと赤字経営を続けてきた動画配信サービスが黒字化したことが、かなり重要であったと感じています。

たとえば、USEN配下ではずっと赤字であったGyAOは、Yahoo!のもとで黒字化を達成しています。番組というコンテンツを第三者から調達し、広告をつけたり、課金をして回収を図るのがその基本的なビジネスモデルです。しかし、動画コンテンツの配信には巨額のインフラ投資が必要で、なかなか黒字化を図れなかった。

本書の元となったインタビューでは、ドワンゴの小林社長、夏野取締役、GyAOの川邊社長、YouTubeの徳生シニアプロダクトマネージャーといったキーマンに、「なぜ赤字なのか、どうやったら黒字化するのか」をしつこいくらいに聞いて回りました。(正直くどかったと思います・すみませんでした)

アスキー新書からは佐々木俊尚さんの「ニコニコ動画が未来を作る」が、ドワンゴの創業期からニコニコ動画のスタートまでを丹念に追った書籍として発行されています。「生き残るメディア 死ぬメディア」に収録したインタビューはちょうど四半期決算後で、期待されていたニコニコ動画が結局赤字に終わったタイミングで行われたものです。しかし黒字化直前のかなり自信を深めていた様子が、小林社長の言葉の端々に現れていて、いま読み返すと興味深いです。

つまり各プレイヤーの証言には、どうすれば黒字化するかというヒントがちりばめられていて、それは同じく「儲からない」とも酷評されつつある電子書籍にも通じる話では無いかと考えています。

本書にインタビューを収録した角川のBOOK☆WALKERのような垂直統合モデル、そして、先日赤松健先生に取材をしたJコミのような絶版を無料で再配布するモデル。単に書籍を電子化して、AppStoreなどに預けて販売するのとは、ひと味違ったモデルが動き出しつつあります。

共通するのは、調達、あるいは供給するコンテンツの量や傾向というよりずっと以前に、プラットフォーム設計に工夫を凝らし、かつそこに投資を続けたプレイヤーが勝つということです。取材を通じてそこはずっと意識して話を聞くようにしていました。その問題意識はその後登場したシャープの「GALAPAGOS」は、プラットフォームとしてみたときに果たしてどうなのか、という考察につながっていきます。

YouTubeに対し、独自の立ち位置を保持するGyaoニコニコ動画ですが、電子書籍の場合は果たしてどうなるのでしょうか?その趨勢はコンテンツ提供者である出版社にとっても大きな関心事と成っています。国産プラットフォーマーが黒字化した映像の分野に学ぶべき点は多いはずです。

と、この文章をまとめていたところ、たまたま、またマガジン航の仲俣さんから、ボイジャー萩野社長の本を頂きました。

電子書籍奮戦記

電子書籍奮戦記

萩野さんは映画業界の出身ですが、その経歴が、多くのプレイヤーが退場していった電子書籍業界にあって、いまなお生き字引的な存在たらしめていることが、この本からも良く分かります。私の経験はもちろん萩野さんには及びませんが、アプローチが似ていることは、著者として密かに嬉しく思った次第です。もちろん、萩野さんへのインタビューも本書では大切なパートを占めています。

電子書籍の成立にはソーシャルサービスとの連携が不可欠

ところで「ソーシャル」という言葉の定義には議論の余地がありますが、YouTubeにしてもニコニコ動画にしてもソーシャル性の高いサービスであり、その特色を活かしてユーザー数と収益機会を拡大してきました。

それに対して、電子書籍はまだその段階にはなく、ようやく紙というアトムの状態を脱して、電子書籍というビットの形に変化しつつあるに過ぎません。クラウドとかソーシャルに至る道のりはまだまだ長い、というのが現実的な見方ではないかと思います。

そこで本書では最後の章でソーシャルWebサービスについて、ページを割いて考えることにしました。「本もソーシャル化する」という意見もありますが、少なくともいくつかのステップを踏まなければそこにはたどり着けませんし、その間どう事業を継続するのかという関係者にとっては切実な問題もあります。1つの鍵はポータルサービスや検索と行った従来のサービスの再活用にあるという考えに立ってまとめたつもりです。

(次回「Webコンテンツが本というパッケージになる意味」に続きます)