まつもとあつしの日々徒然

はてなダイアリーからようやく移行しました

「スマートデバイスが生む商機」セミナーを行いました

前回の記事でその概要をご紹介した新著に関連したセミナーを行いました。

『スマートデバイスが生む商機』出版記念セミナー 〜iPad 2、Android Honeycomb で変わるタブレットコンピューティングとクリエイティブビジネスの世界

書籍の執筆のため取材も行ったバンダイナムコゲームス山田大輔さん、WWDC、E3の現地取材から戻ったばかりのフリージャーナリストの西田宗千佳さんをお招きして、スマートデバイスがゲームをどう変えるのか?というテーマを起点に、ゲームビジネスの未来について考える1時間半となりました。

Twitterでは呟いたことがあるのですが、昨年末にNHKで放送された「世界ゲーム革命」という番組で、モバイルやソーシャルゲームが全く取り上げられなかったことが、ずっと気になっていました。たしかに、任天堂SCEはハードウェアの進歩を牽引していますが、肝心のソフト(コンテンツ)において、日本のプレイヤーの存在感が薄くなっています。

一方で、DeNAがNGMOCOを買収したり、レベルファイブと提携したりと明らかに「ゲーム」業界・市場の様子が一変しつつあります。

そんな問題意識がある中で、Engadgetのこの記事を読んで、これはもっと掘り下げないと、と考えたわけです。

興味深いのはこの記事で紹介されているAppleTVとiPadを組み合わせてゲームをするイメージ図と、WiiUの利用イメージがきわめて似たコンセプトになっていることです。

ソフトウェアにおいては、据え置き型・PC・スマートデバイス間のコンテンツの垣根がきわめて曖昧になり、且つハードウェアにおいてもかつてはその性能差から自然に生まれていた「棲み分け」が過去のものになりつつあるということが改めて明らかになっています。

且つ日本において海外と事情が異なるのは、2000年代前半のiモードとそのエコシステムにおける成功体験があるという点です。この成功体験をポジティブに活用できるのか、それともネガティブに作用してしまうのか、いまその分岐点にゲーム業界も立っていると言えます。(この辺りの歴史的経緯と、現状のアップストアの「産業化できない」という問題点については、夏野剛さんが「iPhone vs. Android」で詳しく語っています」)

ゲストにお招きしたバンダイナムコゲームス山田大輔さんには、バンダイネットワークスバンダイナムコグループにおいて、携帯電話向けコンテンツを担当していた会社。2009年4月にバンダイナムコゲームスが吸収)での経験から、現在の「スマホ」ブームをどう捉えているかを端的に語っていただくことができました。

このスライドにも書かれているように、AppStoreをはじめとするアプリマーケットは、「デパ地下の『巨大な』食料品売り場→試食だけでお腹いっぱい」という指摘は腑に落ちるものがあります。山田さんは、バンダイネットワークスの前は、フランスの携帯電話メーカーに勤めていた経歴の持ち主で、海外から見て当時は先端を走っていた日本の携帯コンテンツ市場と、現在のスマホブームを極めて冷静に捉えている様子が伺えました。

本著の取材後、独自マーケット「バナドロイド」を発表したのも、プラットフォーム オン プラットフォームへの布石と捉えるべきでしょう。

書籍の中では「なかなか儲からないよね、と中途半端な姿勢を続けていたら、2012年に我々は「緩やかな死」を迎えるでしょう」と刺激的なメッセージでインタビューを締めくった氏ならではの、とても濃いコメントも連発で会場をわかせていました。

続いて、ASCII.JPで「Beyond the Mobile」を連載し、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)など著書も多数持つ西田宗千佳さん。

iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏 (ビジネスファミ通)

iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏 (ビジネスファミ通)

西田さんからは「タブレットスマートフォンのビジネス構造」と銘打って、E3・WWDCの様子も交えながら解説を頂いています。

長年モバイルシーンを追ってきた西田さんは、従来型の携帯電話とスマホの相違点は「UIと通信構造(特にパケットの上限規制の撤廃)」であると定義した上で、コンテンツとそのビジネスモデルが大きく異なっている点を指摘しています。山田さんの指摘していたARPUでのリクープを狙うモデルが、コンテンツの表現力とネットとの親和性の高さを活かしながら図られていくことを改めて確認できました。

また、「ゲーム開発者が常に統計(マーケティングデータ)を参照しながら、ゲームのバージョンアップを行っている」というのも、ゲームの本質である面白さのとらえ方が変化しているという観点から大変興味深いと感じました。ファームビルでは「草むしりの回数が増えている=この作業への関心は高い」と判断して、ゲームアイテムを投入するといった例も。

最後に、デジタルハリウッド大学院で学ぶ学生(掛端俊希さん)も交え、スマートデバイスでどうゲームビジネスは変わるのか?そこをこれから目指す学生は、何を学び・身につければ良いのか、といたテーマでディスカッションを行いました。

「オリジナルの作品作りを目指したい」という掛端さんに対して、山田さんからは「ゲームビジネスもハリウッド型に転換してきている」という指摘があったのも注目しておくべきポイントです。スマホ向けの小品からスタートして人気のあるものをパッケージ向けにリバイスを掛けていくといった動きもこれから拡がっていくと考えられます。「もしもし」などとゲーム業界からは否定的に捉えられることもあった携帯電話・スマートホン向けアプリに対する認識が改められ、伝統的なパッケージゲームメーカーが、スマホ向けアプリやブラウザゲーム開発会社を買収するといった動きも加速していくでしょう。私も引き続きこの分野にも注目しておきたいと思います。

なお、7月下旬には西田宗千佳さんとセミナー(電子書籍スマートデバイスを中心に・有料)を行う予定です。
決まり次第サイトの方でも告知させていただきます。