まつもとあつしの日々徒然

はてなダイアリーからようやく移行しました

今度の新刊は実は分厚いです

新刊についてのお知らせ兼雑感を3回ほどに分けて投稿します。

12月10日(金)に本が出ます。

目次は以下のようになっています。

Ascii.jpビジネスで連載を続けている「メディア維新を行く」と、同デジタルで不定期に掲載している「動画ビジネスってどうなの?儲かるの?」、そしてマガジン航に寄稿した記事をピックアップし、また調査会社ニールセン・ネットレイティングスからデータの提供を受け、大幅に加筆したものです。情報も可能な限り新しくして用語の解説も付けました。

プロローグ――ネット帝国主義、その先にあるもの

第1章 電子化が出版業界を揺るがす
1 「出版」=コンテンツ・ベンチャーの理念に立ち返れ――「文化通信」編集長、星野渉氏に聞く
2 iPhone/iPad規制と、これからの電子書籍――ボイジャー萩野正昭氏に聞く
3 電子書籍三原則とフォーマットを整理する――書籍アプリはお茶濁しに過ぎない?
4 国際ブックフェアに見る、電子出版と印刷会社――グーグルエディションと大手印刷会社の動きを探る
5 AiR―見えてきた電子書籍の成功モデル――出版・取次を介さず、原稿料も発生させないその秘訣とは?
6 ガラパゴスの夜明けはやってくるのか――ジャープの電子出版ビジネス「ガラパゴス
7 電子書籍への大転換は「ソーシャルな読書体験」から生まれる――端末の機能は本質ではない
8 垂直統合プラットフォームとしてのBOOK☆WALKER――本を起点にゲーム・グッズ・映像をつなぐ架け橋を目指す

第2章 テレビからネットへ――界面を巡る動き
1 ドワンゴ小林社長が語る「ビジネスとしてのニコニコ動画」――有料会員100万人、そして黒字化。飛躍直前に語られた展望
2 「コンテンツID」で広告モデルを徹底するユーチューブ――プロ・アマチュア双方にメリットをもたらすその仕組みとは?
3 狙うはテレビとパソコンの「間」 GyaOの勝算を聞く――USENからヤフーへ。黒字化の秘策とは?
4 ドワンゴ夏野剛氏が語る「未来のテレビ」――変革期のプラットフォーム、日本に足りないのは何か?
5 コンテンツビジネスを読み解く3つの理論――バリューチェーン/ウィンドウウィングモデル/グッドウィルモデル

第3章 メディアシフトを動かすもの
1 激震ネットメディア。その現状を俯瞰する――「すべてをコントロール下の置くオープン戦略」が主流に
2 ミクシィフェイスブックの日本侵攻を食い止められるか?――オープン・プラットフォーム戦略が鍵を握る
付録 データで見るソーシャルメディアと動画サイト――各々の特徴とその推移・傾向が顕著に

あとがき

▼とても…分厚いです…

結構詰め込みました。トータル約270ページと、新書としてはとても分厚いです。
どれくらいのボリューム感か、マガジン航の仲俣さんからいただいた「ブックビジネス2.0」と並べて写真を撮ってみたのが冒頭の写真です。ページ数はどちらが多いか一見して分かりますか?

本の厚みをクローズアップをするとこんな感じです。

実は今回の新書の方が30ページほど多いんです。

紙の種類でこんなに違うものかと驚かされました。

もちろん中身の有る無しとはまた別の話です(笑)
#ブックビジネス2.0、また書評も書きたいと思っているのですが、興味深いです。おすすめです!

ブックビジネス2.0 - ウェブ時代の新しい本の生態系

ブックビジネス2.0 - ウェブ時代の新しい本の生態系

私はよく分からないのですが、出版に詳しい方からすると、このページ数でこの価格はなかなか凄いことらしいです。この1年間取材や考察を続けてきて、それらを取捨選択してもこれだけのボリュームになるものかと、改めて2010年の動きの多さを実感しました・・・。

(次回「電子書籍ブームと動画ビジネスの黒字化」に続きます)

ソフトバンクモバイルSBCareさんからのメール回答

この記事は、Togetterの方でまとめた 「ソフトバンクTwitterサポートアカウントさんとのやりとり」 http://togetter.com/li/73920 について、ソフトバンクモバイルサポートアカウントさんから頂いた回答を転載したものです。

(以下原文ママ

マツモト 様

ソフトバンクモバイルをご利用いただき誠にありがとうございます。
ソフトバンクモバイルSBCareです。

この度はTwitter上でのやり取りを望まれているにも関わらず、Eメールでの対応とさせて頂いた事に対して、お詫び申し上げます。

今回のご質問を受け、マツモトさまに今後もソフトバンクモバイルを継続してご利用いただくために私どもで何かできることはないかと考えました。その結果、Eメールにて対応させて頂く事で、マツモト様のご利用状況にあった提案ができるのではと考えた次第です。

MySoftBankでログインいただき、ご本人様確認が取れたため、勝手ながらご利用状況を確認させていただきました。

結論から申し上げますと、マツモト様のご利用状況を踏まえますと、現在のプラン(パケットし放題フラット)が適切かと考えます。

以下、計算方法の説明となり長文となりますが、ご確認いただけると幸いです。
パケットし放題forスマートフォン、パケットし放題フラットともに、1パケットあたり0.08円の課金ですが、
上限額が以下のようになっております。
・パケットし放題forスマートフォン 5,700円(税込5,985円)/月
・パケットし放題フラット 4,200円(税込4,410円)/月

また、過去3ヶ月分のパケット数を確認させていただいたところ、以下のようなご利用状況でした。
・2010/11利用分 2,232,977Pkt
・2010/10利用分 2,082,697Pkt
・2010/9利用分 2,161,578Pkt

利用が少ない10月分(2082697Pkt)を参考に、両サービスで計算しても、パケット料金は上限に達しております。

・パケットし放題forスマートフォン
2,082,697Pkt×0.08円=166,615.76
上限金額の5,700円(税込5,985円)

・パケットし放題フラット
2,082,697Pkt×0.08円=166,615.76
上限金額の4,200円(税込4,410円)

iPhoneの仕様としてWebページを閲覧された際、PCサイトダイレクト(iPhoneからご覧いただくことができるPC専用のページ)になるため、現在のパケットし放題フラットの方がお安くサービスをご利用頂けます。

マツモトさまが望まれている、
・パケットし放題for スマートフォンへの機種変更を伴わない変更
・パケットし放題MAX for スマートフォンiPhoneが対応機種になる
この点については現状対応しておらず、結果として希望に添えるサービスが提供できなくなってしまった点は深くお詫びを申し上げます。

9月にパケットが少ないのは何故なんだろう、という個人的な関心はさておき、もともとの質問(下記)のポイントから外れてしまっているのが気になります。

.@sbcare そうなりますと、先の「パケットし放題MAX for スマートフォン...の提供に伴い受付終了」との因果関係が分かりかねます。iPhoneが利用できないプランの導入が、なぜiPhoneのプラン変更に影響を与えるのでしょうか?

そもそも、Galaxy Tabの購入をきっかけに、iPhoneのパケット料金を見直そうというのが発端でした。
また、Galaxy Tabを購入したショップでは、「パケットし放題forスマートフォン」への変更を薦められた(結果的にそれは11/11に受付が終わっていたことを知ることになるわけですが)という経緯があります。

したがって、直近のパケット料金から「パケットし放題フラット」に維持することをお勧め頂いても、うーん・・・という感じです。
せっかく調べて頂いたわけなのですが。

「ソーシャル」を巡る論点の整理

さて、ここ数日「ソーシャル」という言葉を巡る議論が、(一部で)熱くなっています。

きっかけはこの記事。

蔓延する誤った「ソーシャルメディア」の定義【水谷翔】 : TechWave

ここで大学4年生の水谷さんは、

ソーシャルとは「リアルな友人との関わり合い」のことを指します。

と断定して、はてなブックマークTogetterで多くの人による違和感が表明されました。

その急先鋒はやはり佐々木俊尚さんのこのコメントでしょう。

この記事は100%間違っている。そもそもバーチャルの人間関係とリアルの人間関係が融解しつつあるのであって、リアルに固執するのは変。

論点1:ソーシャルとはリアルなものだけを指すのかバーチャルなものも内包するのか?

まず一旦整理しなければならないのが、英語でのVirtualは、リアルの反対語では無いという点です。
ヴァーチャルリアリティの研究者は、Virtualに「仮想」という訳を当てるのを嫌う傾向があります。

Wikipediaの「ヴァーチャルリアリティ」の項目冒頭にもあるように、「実際の形はしていないか、形は異なるかも知れないが、機能としての本質は同じである」という意味で本来的には使われるべき言葉です。

SNSに置き換えると、「実際に顔見知りでは無いが、ネット上で繋がっていることが、実際に顔見知りであることと本質的には同じように機能する」、という風に理解できます。佐々木さんのいう「融解」とは、高機能になっていくSNSがあればこそですが、間違った指摘ではなさそうです。

一例を挙げると私は4千人を超える方にフォローされてますが、実際の顔見知りはもちろんもっと少ない数字です。けれども、Twitterの機能によって、例えばメール取材しかしたことが無い人ともリアルの顔見知りに近い感覚でコミュニケーションが取れます。逆に、毎日のようにTwitter上では激しい口論も起こりますが、実にリアルな社会を投射したヴァーチャルな空間であるとも言えるでしょう。

Twitterをソーシャルにカウントするべきでは無いという意見もあります。けれども、純粋にFacebookを例にとっても、「実際の友人」が「いいね!」ボタンで紹介しているコンテンツが、自分自身が顔見知りではない「友達の友達」によるものだったとします。それに対して自分も「いいね!」ボタンを押すことで、ここでいうヴァーチャルに一歩近づくことになるわけです。

つまり、SNSの機能や人々を惹き付ける魅力から考えても、ヴァーチャルなものも内包する、と捉えるのがごく自然であると言えるでしょう。

水谷さんの記事を掲載したTechwaveの湯川鶴章さんは、記事への「蛇足」として次のように述べています。

インターネットは「巨大な図書館」から「巨大な公民館」になる。巨大な公民館ではリアルな人間関係が核になっていく

個人的には、現実世界でそうであるように、図書館もあれば公民館もあるというのが自然な未来像であると考えますが、それよりも重要なのは、「巨大な公民館」で果たして「リアルな人間関係が核に」なり得るのか、という点です。

ウィキノミクス」で紹介されている事例などを振り返っても、ネット上で国境や現実世界での社会的関係を越えて、協働が生じています。それこそが「巨大な公民館」化するネットならでの大きな特徴であると理解した方が、湯川さんがおそらく理想と考えるゴールに近づくのではないでしょうか?

ウィキノミクス

ウィキノミクス

湯川さん自身も「蛇足」の中で「バーチャルな人間関係もリアルな人間関係も自分にとっては感覚的にはリアルなものに近づく」としていますが、結論では「リアルな人間関係が核となっていく」とまたいわば「リアル固執」と読めてしまう結びになってしまっているのが残念です。

まずはヴァーチャル=仮想という誤訳から離れて、言葉の定義から確認していくことが(枝葉末節ではなく)この議論では重要です。また、言葉を大切にするというのは、旧来メディアであれ、ソーシャルメディアであれ、著者と編集者にとっての変えては行けない矜持では無いかと考えます。

論点2:実名か匿名か

ところで、このリアルかバーチャルかという議論に、実名・匿名の話が混じるとややこしくなります。

水谷さんの、「SNSとは、『実際の友人・知人との関係をネット上に移したもの』」と断定しているのも、多分に「煽っている」表現にはなっていますが、以下のように整理すれば実は間違ってはいません。

自分のSNS上での友人を仮に、「リアルな友人」で固めたとしても、その先にいる「友達の友達」は顔見知りとは限りません。ただ、人間関係(ソーシャルグラフ)を俯瞰して見たときに、仮にその中に匿名や顕名のユーザー(ペンネームのように書き手が特定できる形で情報発信する人)が混じっていても、その後ろ側には実在の「人間」が居るわけです。それらを「ネット上の移したもの」という定義は、ごく自然なものです。ソーシャルグラフとはそういうものなはずです。

改めて確認しておくと「匿名=ヴァーチャル」という関係ではありません。SNSの様々な機能がヴァーチャルな人間関係の本質性を強化しつづけている、というのが正しい現状認識であると考えます。

ただ、そこに「実名で交流すべき」とか「(2ちゃんねるを念頭に置きながら)匿名だから日本のインターネットは残念」といった「有るべき論」が加わると、どうも議論にフィルターが掛かるようです。

【日本の議論】ネット上は匿名?実名? 勝間和代氏vsひろゆき氏の“議論”より (1/5ページ) - MSN産経ニュース

海外のFacebookユーザーが実名・顔出しでコミュニケーションが取れる理由はなぜでしょう?私は実名であることで生じうるトラブルに対して、本人と周辺が適切に反応できる経験値を社会的に積んでいるから、と考えています。従って実名コミュニケーションによるメリットも享受できている訳であって、SNSに登録するIDを日本でも皆が実名にすれば、自動的に「巨大な公民館」としてのネットが、理想型に近づく訳ではありません。

ITシステムとしてやるべき事は、実名あるいは顕名によるトラブルを予防・救済できる仕組み作りですし(実際mixiはそこにかなりの投資をしている点がこれまで広く支持されている理由であると捉えています)、もっと長い目で社会として見たときには、ICTリテラシー教育というところに立ち戻るしかないでしょう。

そして最後、

論点3:オープンかクローズドか

Facebookは排他的だ  - Market Hack(外国株ひろば Version 2.0) - ライブドアブログ

mixi副社長の原田明典さんが、「やっと日本でもこんな記事が・・・」とTweetされたのは、ちょっと驚いたのですが、競争相手に対するポジションを考えると、コメントをされたかったというところなのかなと推察しています。

冒頭こちらの記事では映画『ソーシャル・ネットワーク』の冒頭部分、ザッカーバーグの"Because it’s exclusive and fun."というセリフを取り上げて、彼自身がFacebookが「排他的だ」と言及しているじゃないか、と指摘します。

しかし、どうも変です。日本語的に考えても「排他的」だし「楽しい」ってなんだか意味が通らなくはありませんか?

WikionaryによるとExclusiveの形容詞の項には以下のようにあります。

  1. exclusive (comparative more exclusive, superlative most exclusive)
  2. (literally) Excluding items or members that do not meet certain conditions.
  3. (figuratively) Referring to a membership organisation, service or product: of high quality and/or reknown, for superior members only. A snobbish usage, suggesting that members who do not meet requirements, which may be financial, of celebrity, religion, skin colour etc., are excluded.
  4. Exclusive clubs tend to serve exclusive brands of food and drinks, in the same exorbitant price range, such as the 'finest' French châteaux
  5. exclusionary
  6. whole, undivided, entire
  7. The teacher's pet commands the teacher's exclusive attention

id:satohhide さんが、この記事にコメントしているように「この場合のexclusiveって「粋な」という意味だろうから字幕は間違っていない」、つまり上記の3番の意味に近いというのが正しい理解であるように思えます。仮に会員制であることを持って、「閉鎖的」と断じるのもやや強引と言えるでしょう。仮にそうなら当初招待制のみだったmixiの方がよほど「閉鎖的」です。

最初に例を挙げた水谷さんの記事同様、少々「煽りが過ぎた」というところかも知れません。

もちろん、(本来この記事ではこの例を引くべきだと思いますが)Gmailへのアドレスのインポートを許さないといった施策を持って「閉鎖的」という批判は成立すると思います。

GoogleがFacebookによるGmailデータの自動インポートをブロック、対立激化 | ネット | マイコミジャーナル

ただし、この問題は(Facebookの出自が学内交流を目的としていたから未だ現在もクローズドだという零点答案はともかく)プラットフォーム・リーダシップと大いに関わる論点です。mixiにしても、先日のオープン化の前は、アプリにしかソーシャルグラフの外部利用を認めていませんでしたし、その前は全くクローズドだったわけです。

クローズドの是非そのものよりも、ソーシャルプラットフォーム間の競争で、各社パラメータを随時調整しているというのが実情で、Facebookだけを批判してもまた似たような問題が別のプラットフォームで起こるはずです。投資顧問会社に勤める広瀬さんが、仮に何らかの理由でmixiを応援するという立場であればこの方法ではうまくいかないでしょう。

ASCII.jp:mixiはFacebookの日本侵攻を食い止められるか?|まつもとあつしの「メディア維新を行く」

という具合に3つの論点から見てきましたが、冒頭触れたように共通するのは「言葉の定義を大事にしましょうよ」ということかも知れません。湯川さんが「蛇足」で指摘しているような「議論の価値」を抽出するには、まずは発信者・受信者双方に言葉を大事にしないことには、残念ながら議論そのものが成立しないということを確認した一連の記事でもありました。これ、ソーシャルネットワークにおけるヴァーチャルな関係性を突き詰めるときにも現れる課題の一つとも言えそうです。

香川県で講演してきました

2010年10月30日の土曜日、香川県の「e-とぴあ・かがわ」というところで講演してきました。
高松駅からほど近い場所にあり、県の委託を受けた民間企業グループが運営する施設です。
県民のIT化を進める目的で様々な講座やイベントを行っており、今回お声が掛かった次第。

毎年、春と秋に特別講演が行われていて、前回はヒマナイヌの川井拓也先生( @himanainu_kawai )がUstreamの話題を中心にお話しされ、大変好評だったそうです。その後を受けて私とは恐縮だったのですが、「スマートフォンクラウドサービス」について1時間半話してきました。

前日の深夜、台風が通過したばかりで、まだ天候が良くない一日でした。実際、他の県内のイベントは中止になったものが多かったようです。それにも関わらず100名近い方にご来場頂き、予定を前倒しして遠征した立場としてはホッと一安心。

講演内容は、拙著「iPhoneGoogle活用術」をベースに、スマートフォンGoogleなどの各種クラウドサービスをどう組み合わせれば、仕事やライフスタイルが変わっていくのか、実演を交えながら解説をしていく、というものでした。

できるポケット+ iPhoneでGoogle活用術

できるポケット+ iPhoneでGoogle活用術

講演ではTwitterの活用についても少しだけ触れたのですが、後日こんなメッセージも頂きました。

講演後集計頂いたアンケートでは、大変満足・満足を合わせると、なんと88%の方が満足(不満は0%)という結果でした。
(ちょっと情報商材っぽい導入・・・笑)

講演の内容はスライドをご覧頂ければだいたい雰囲気は伝わると思いますので、それを通じて感じたことなど少し。

▼ちょっとメタな視点から

講演後の打ち上げでも話題に上がったのが、こういった公共性の高い取り組みでの、人材育成の成果を数値化することの難しさでした。

2005年前後にあった「プロデューサー人材育成」に対する関心の高まり、予算の投下、各種専門学校・大学院の新設というブームも一段落。今振り返ると、その後の成果を測ることの困難に行き当たります。一般の方へのIT教育にも通じるものがあります。

講演では高齢の方(あとで伺ったところ80代の方だそうです)が90分間「ウンウン」と頷きながら、自分のスマートフォンをいろいろ手元で試そうという姿が壇上からも見えました。現在では施設側が音頭を取らなくても、自発的にITを使った活動を行ったり、施設の運営を支援する「クラブ」が多数生まれているそうです。

世間ではいわゆる箱物行政に対する批判が根強いのですが、このような「場」が無ければ生まれなかった成果を目の当たりにしました。こういった人やコミュニティの成長をどう評価するか?その手法がまだまだ確立されていない、というのが問題かも知れません。

どうしても、行政の予算に関わる取り組みでは、予算の投下に対して、その回収の成果が求められます。これ自体は当たり前の事です。しかし、例えばプロデューサー育成でも、仮に何ら資格を与えて世に送り出したとしても、その後直ぐに大ヒット映画を自分のクレジットで生み出すことが出来るかというと難しいのです。

IT人材であれば、おそらく自分の身の回りのちょっとした情報化、プロデューサーであればまずは何らかの組織や人に弟子入りして下積みに入るでしょう。そういった成果を数字で目に見える形で問うのは難しいのです。

私が所属する研究室では、コンテンツ分野の人材育成を研究テーマにされているメンバーも居ます。その意義を改めて感じた機会でもありました。

▼IT教育からICT教育へ

ITへの習熟度を測る、という意味ではTwitterなどでの情報発信数をカウントするのも一手なのかも知れません。つまり、ツールとしてのITを使いこなした次の段階として、ITを使ったコミュニケーションの活性化を測る、ということです。

講演中の質疑応答や、講演後の受講者の方とやりとりでも、「フォロワーをどうすれば増やすことができるのか?」、「不特定多数の相手ではなく、興味関心の近い人に向けて呟きを発するにはどうすれば良いのか?」といった質問が寄せられました。 ICTに対する関心の高まりを実感したのでした。

BLOGに比べTwitterでの情報発信は手軽ですが、発信する内容や、フォロワーとのやり取りでは一方通行での情報発信に留まりがちなBLOGに対して高いリテラシーを求められます。しかしそれは本来ITプラットフォームにおけるコミュニケーションで必要とされるべきものです。

孫(まご)にパソコンで年賀状を送れた、というところから更に一歩踏み出すには、Twitterは良い題材になりそうだなとも思いました。結果、計量可能な、そういったITプラットフォームからの情報発信「数」を増加させるということにも繋がるはずです。津田さんの本にもそんな事が書いてあるはず(まだ読めていないのです・・・すみません)

Twitter社会論 ~新たなリアルタイム・ウェブの潮流 (新書y)

Twitter社会論 ~新たなリアルタイム・ウェブの潮流 (新書y)

といった具合に、東京に居てはなかなか思い至らないことにも気づかされた良い機会でもありました。
お声がけ頂き、当日綿密に準備を整えて頂いたe-とぴあ・かがわの関係者の皆様と、お越し頂いた受講生の皆様に改めて御礼申し上げます。

うどん美味かったです。

ストレスフリー・ツイッター術

論文やら新書の執筆やらですっかり時間が掛かってしまったけど、ようやく渡辺由佳里(@YukariWatanabe )さんから頂いた本を読了。

ゆるく、自由に、そして有意義に──ストレスフリー?ツイッター術

ゆるく、自由に、そして有意義に──ストレスフリー?ツイッター術

糸井重里さんが「いい家庭教師と、ゆったり話しているような本です」と帯に言葉を寄せているように、平易な言葉で、Twitterをこれから始めようかな、という人から、Twitterを日々使っているけど、最近ちょっとストレスを感じるな・・・という人にまで広くお勧めできる一冊だと思いました。

実は私がこの本を読むのに時間が掛かったのには、もう一つ理由があります。

2009年の年末から今年の初めにかけて、「Twitterでフォロワー1000人できるかな」という集中連載を担当していたことがあったからです。思わずそのときのことを振り返りながら読んでいたら随分時間が掛かってしまいました。

こちらの記事の冒頭で書いたように、Twitter始めたけどいくらツィートしても反応が少ないとつまらない・林信行さんが言うようにTwitterをリアルタイム検索エンジンとして使えるくらいになりたい、という極めて単純な動機からはじめた企画です。

つまり、フォロワーをある程度増やさなくちゃ、ということに行き着きます。いろんな事を試し、読者の方からも様々な反応がありました。結果として大勢の方に私のアカウントをフォローして頂くことにもつながりました。

しかし、渡辺さんが本書第4章「ツィッターの迷信と真実」で戒めている「フォロワー数=ステータス」、という風潮をもしかしたら助長してしまったのではないか、という反省があります。記事の中でも折に触れて、数を追求することが目標ではない、とリマインドはしたものの、今でも時々「どうやったら、手っ取り早くフォロワーを増やすことができますか?」という質問を受けて躊躇することがあるのです。

「ゆるく、自由に、そして有意義に」では、まさにその質問に対してうまく答えているし、最近Twitterを眺めていて毎日のように起こるスパム的な行為、晒しあげ、人格攻撃に対してストレス少なく対処する秘訣も紹介されています。

積極的にフォローを続けることで、フォロー返しを受け、結果的にフォロワーが増える、という仕組みは確かに存在しています。ただ、リストやクライアントのカラムを使っても限界はあります。本書では3000をその上限として例を挙げていますが、私もその辺りが限界です。

それに気づかせてくれたのは、2,001人を超えるとフォロー数の1.1倍しかフォローできない、というTwitterの仕様でした。ある日フォローができなくなり、そこからまたTwitterに対する向き合いかたが変わった――ある意味自分の中での「Twitter祭り」が終わった瞬間でもありました。

もちろんインフラへの負担も考慮しているとは思いますが、こういう仕組みを設けているTwitter社は賢いなあと思います。この上限を超えてフォロワーを増やすには、本書で「悪い例」として紹介されている幾つかの努力が必要となるのですが、その履歴も少し調べれば分かるようになっている訳です。

渡辺さんはTwitterを「パーティ」に喩えて話を展開されていて、これが最後までスラスラと本書を読める流れを生み出しています。パーティの場で幾ら目立つ行為をしたり、沢山の名刺を集めて廻ったとしても、パーティを離れた日常に実が無ければ、虚しいだけでしょう、とやさしく、しかし的確に指摘をされています。

Twitterの登場当初は、あたかもその場をユートピアのように喧伝する向きもありました。実名で、お互いが批判・非難することなく、助け合いが実現するような場にしましょう、といったような語られ方がしたものです。しかし、人間が集まる場である以上、揉め事はつきものです。ある面で人間は当事者・傍観者ともそういった事態を望むという性(さが)もあります。

賑わってきて、様々な人が次々と参加するネットコミュニティとは、必ず変質していくというのが現実ですから、その変化を嘆くよりも、賢く振る舞える術を身につけて引き続きその場を有意義に楽しむというのが合理的でしょう。

おおよそ、良著というのは本来読むべき人になかなか読んでもらえないというジレンマがありますが、冒頭に挙げた初心者〜中級者(という分け方が最適かはさておき)が、一読しておくことで、要らぬストレスやトラブルから解放される、予防薬となり、悲しいかな既に巻き込まれてしまった人にも、きちんと傷を癒してくれる、そんなお薬のような一冊でした。

こちらから見本もダウンロードできるそうです。

絶版本を探して電子書籍を想う

論文や記事の参考文献にすることが多い、こちらの本。

プラットフォーム・リーダーシップ―イノベーションを導く新しい経営戦略

プラットフォーム・リーダーシップ―イノベーションを導く新しい経営戦略

モバゲーやGREEが各方面から注目されていることもあり、「プラットフォーム」という言葉を目にする機会も増えました。私はこの本を大学院の友人に勧められてから、よく参考にしています。

ところが、うっかり某所に(あまり参照しない)書籍をごっそり預かってもらっていた中に、この一冊が含まれていたのです。

今度書く記事でも引用したいので、問い合わせたところ「見つからない」との返事。えー、そんなあ(涙)。


仕方なく、アマゾンで再購入して、今度は自炊もするか・・・などと思っていたら、絶版。
しかも、中古本には1万円以上の値段が!


さすがに1万円は無いわ、と思いながらTwitter書き込んだところ、

@a_matsumoto まだ8000円ですがここなら少しは安いです…。
http://bit.ly/9CnPCP

とフォロワーのすえきちさんから親切なコメント。(ありがとうございます!)うーん、しかし8000円かあ・・・。

「そうだ!書店の棚には在庫があるんじゃなイカ?」

と思いついて、取り敢えず手近な駒場東大生協へ。店員さんによると「本郷には一冊だけデータベースに在庫がある」との返事。すぐその場で電話してもらう。これは、競争の様相を呈してきたぞ。

電話を切った店員さん、残念そうに「やっぱりもう売り切れてしまったみたいです」

嗚呼、なんということ。もうこれは8千円の古書を買うか、それともがんばって原書を買って読み直すか・・・と途方に暮れながら店を後にしたのでした。

なんだかお腹も減ってしまったので、お店の前のベンチで菓子パンをかじっていたところ、さっきの店員さんが近づいてきます。

「あの・・・その後調べたんですが、有斐閣さんの方で重版が掛かっているみたいなんです。週明けいつ入荷するかご連絡できます」

おおお!助かった。絶版ではなくて増刷が間に合って無かったんだ!
わざわざ追いかけて来てくれた生協の店員さんに感謝。さすが最近話題を集める東大生協。やるな。

しかし、やはりオチとしては「電子書籍ならこんな苦労しなくていいのに」の一言に尽きるわけです(汗)。ネット万能の時代に、本一冊を巡ってこんな面倒がまだあるのか、とやはり奇妙に感じた土曜の午後でした。

連載記事でいろいろ取材もして、大人の事情はあるとは身をもって知ってます。
しかし、一研究者・読者としては、やはり早く何とかなって欲しいものです。

TOEIC SWの説明会に行ってきた

TOEIC(R)|TOEICスピーキングテスト/ライティングテスト

さて、今年2010年前半の目標をTOEIC800点に定めて、アルクさんの教材に取り組んで無事獲得することが出来ました。(その経緯はこちらのBLOGで)

いろんなところで書いたり、話したりしていますが、「英語でインタビューが取れるようになる」のが目的です。フェイスブックブームの到来もその一例で、残念ながらIT分野で国内の事例がますます減ってきており、海外の動向を早めにキャッチできないといけない状況にあります。

もともとのスコアがブランクもあり650点前後だったので、(僕じゃなくてアルクの教材が)すごいパフォーマンスだった訳ですが、1つ大きな課題が残ってます。

それは、リスニングとリーディングのスキルは上がったものの、スピーキングとライティングといった、発信型のスキル、運用のためのスキルがあんまりあがった実感がない、ということです。

TOEICの勉強を通じて、たとえばRSSリーダーで海外ニュースをささっと読むということはだいぶできるようになってきました。それはそれで凄く役立つものの、じゃあ、メールやテレカンなどで直接キーパーソンにインタビューできるかというと、まだ心許ない。

仕事と研究とのバランスもとりながらではありますが、このスキルを上げられる方法を模索しており、スキルチェックとして、このTOEIC SWテストに目を付けたという訳です。

今日2時間の説明会を受けて、特に良いなと感じたのは、テストの採点基準が「スペルや文法的に間違いがないか」「発音が正しいか」といったいわゆる受験テスト的なものではないところです。

CBT(Computer based test)で行われ、PC画面とヘッドフォンへの音声によって出題、回答はキーボードとヘッドセットで行うこのテスト、採点基準は例えばこんな感じだそうです。

多少の間違いがあっても意味が通じれば満点が取れる、というのはプロの翻訳家など、英語そのものを仕事にする人には正直もの足りないと思いますが、英語を道具と割り切って学習する分には非常によいゴール設定だと思いました。

ネットの普及が、英語の利用シーンを広げ、結果として英語でコミュニケーションする必要性があがったとはよく指摘されています。

楽天など企業での英語公用化はこれからも進んでいくことでしょう。それは私のような英語を苦手とする人にとっては悩ましい事態でもあります。

しかし一方で、英語を利用する人種・地域が広がったことによって、一つとてもありがたい状況の変化もあります。それが、「非ネイティブで英語を利用するスピーカーの比率が高まった」ということです。

これまで、英語がはなせる=ネイティブのような発音、立居振る舞いができる、という図式があったと思います。もっとどぎつくいえば、「仕事はできないのに、英語ができることで重宝される帰国子女」というのもまた一面の事実であった訳です。

しかし、たとえばBBCのポッドキャスト(毎日聞いてるのは「Global News」)なんかを聞くと実感しますが、現地リポートなど非ネイティブなことの方が多いのです。もう発音もぐちゃぐちゃ、いわゆるJapnese-Englishも綺麗に聞こえるくらいのインタビューもあったりします。

ついこないだまで英語学習者の悩みだった「発音」から、かなり解放されるというのは、逆に日本人にとっては大きなハードルが一つ取り除かれることではないかな、とおもったり。

そんなことを改めて確認できる機会でもありました。

1万円弱ということで、普通のTOEICテストよりもちょっとお高めですが、スケジュール調整して受けたいと思います。また経過・結果などこのBLOGで記録していきます。