まつもとあつしの日々徒然

はてなダイアリーからようやく移行しました

感動的な作り話とソーシャルメディア

Facebookはバカばかり - Hagex-day.info

こちらでほぼ言い尽くされている感がありますが、なぜこの件気になるのか自分なりの考えを整理。

(1)真贋について

この手の議論で必ず出てくるのが、「真贋はともかく良い話じゃないか」、「そんなこと言ったら小説や映画でも感動できなくなるじゃないか」という反論です。

個人的には、お話しや教訓の内容がフィクションであること自体は問題視していません。
ただ、その内容が必ずしもフィクションとして扱われていないことは大いに問題だと思ってます。
すでに上記記事でも指摘されていますが、原発事故の後のデマとこうした都市伝説はベクトルは違えども性質はよく似ています。現実と混同しやすく、リーチが広いテレビドラマで番組の最後に「この物語はフィクションです」と必ず入る意味を改めて考える必要があります。

(2)拡散について

デマの語源であるデマゴーグは、ギリシャの煽動政治家のことです。煽動には人々の口コミ、つまりソーシャルメディアでいうところの「拡散」が重要な役割を果たします。ソーシャルメディアの興味深いところは、これが可視化されることですが、今回の投稿も最後が「人種差別に反対する人はシェア(拡散)」となっていました。

ネットでは残念ながら愉快犯が少なからず居ます。
2ちゃんねるで創作されたデマや作り話を、以前ならmixi、現在ではFacebookTwitterに「放流」して、それが拡がって行く様を見て、嗤(わら)っている人がいるということはもっと知られていても良いことだと思います。

嗤う日本の「ナショナリズム」 (NHKブックス)

嗤う日本の「ナショナリズム」 (NHKブックス)


(3)内容について

このエピソードは「逆差別」という要素も持っていて、必ずしも人種差別反対というニュアンスだけでは捉えられません。もともとがブラックジョークだったということにも注意を払う必要があります。例えばこれが、日本の航空会社でアジア系の人種を扱っていたら、と考えてみるとなんとなくイメージが掴んでいただけるかもしれません。

デマや都市伝説は、人の持つステレオタイプをうまく利用します。「ハーバード大学」や「ビルゲイツ」なども人のステレオタイプを刺激するキーワードでしょう。大したことがないエピソードだったり、事実関係に間違いがあっても、これらの枕詞がつくことで「やっぱりそうだったか」となるわけです。人の弱さを突いているとも言えるでしょう。

(まとめ)
真贋・拡散・内容と考えて行くと、いわゆるソーシャルメディアの仕組み*1がまだ未整備なところに、そこに新たに参加するユーザーが増えることで、リテラシーの問題が表面化しているということになると思います。

上記記事の拙いところは、古参ユーザーが新規ユーザーを馬鹿にしているスタンスをとっていることです。たしかに頭から「バカ」と言われては、分かる話も分からなくなることもあるんじゃないかと。

ということで、言いたいことは近そうなんですが、丸く言い換えて整理してみました。

*1:たとえばTwitterにおけるRTや今回のシェアの問題など。発信元が訂正や補足を加えてもそれが拡散先には伝わらない。

またまたアルクさんの教材をモニターさせていただきます

以前、英語通信教材を手がけるアルクさんのモニターになったことがあります。
TOEIC800点チャレンジ」というもので、その名の通りの内容です。

紙の教材と、CDの教材(iPhoneなどに取り込み可能)と模擬テストで、スコアの底上げを図るものですが、効果てきめんで、840点を獲得することができました。

しかし、仕事で使えるレベルでは自信をもって「話せない」・・・。

実は、仕事でも海外のIT企業へのインタビューなど打診が出てきていて、本当はお引き受けしたいのですが、迷惑を掛けてしまっては…と思って、ちょっと腰が引けてしまっていたのでした。リスニングと筆記が中心のTOIECでは、このスキルを磨くのはやっぱり難しかったのかも知れません。

そこで、アルクさんに「聞いたり話したりを底上げするプログラムは無いんですか?」と問い合わせたところ、「これだとどうでしょう?」とご提案を頂きました。さすが、アルクさん、死角がない。早速申し込んでみました。

アルクのとことんスピーキング練習シリーズ

実は一ヶ月くらい前に届いていたのですが、ようやく開封(汗)。担当者様、すみません。

今回は「オンライン版」を選択したので、CDは同梱されていません。
マイクの存在が「話す教材」だということを猛烈にアピールしています。

実は、わたし、以下のような本も書いているのですが、両者の違いなども意識しながら使っていこうと思います。

できるポケット+ Rosetta Stone Version 4 TOTALe (できるポケット+)

できるポケット+ Rosetta Stone Version 4 TOTALe (できるポケット+)

週一回くらいの更新を目指してリポートしていく「つもり」です。
次は「使ってみた」をまとめるべくがんばります。(年末進行のまっただ中ではありますが・・・)

読書メモ公開「形なきモノを売る時代」

先月上梓した「スマート読書入門」(技術評論社)では、書籍のデジタル化から、読書メモを取ったり、感想をソーシャルメディアを通じて共有・交流するといったことを提案しています。

スマート読書入門 ?メモ、本棚、ソーシャルを自在に操る「デジタル読書」 (デジタル仕事術)

スマート読書入門 ?メモ、本棚、ソーシャルを自在に操る「デジタル読書」 (デジタル仕事術)

ということで、西田宗千佳さんの「形なきモノを売る時代 タブレットスマートフォンが変える勝ち組、負け組」を読んで感じたこと、考えたことをメモしましたので公開します。西田さんからは有り難くもTwitterで「異論歓迎」と頂いたので、ツッコミも含めて(笑)
とはいえ、綿密な取材と多角的な考察でうならされるところ多数。

P29 パソコンにケイタイ電話の発想を取り入れた?
P33 モトローラの話題もいち早く取り入れられている、さすが!
P.39 タブレットは「テクノロジードライバ」
P.52 代替するものだろうか?むしろ補完として見るべきでは?
P.72 テレビのビジネス構造にはもう少し説明あった方が一般の読者にはわかりやすいかもしれない。
P.74 Zガンダムの視聴数アップはプロモーションのおかげもあるのでは?
P.160 ゲーム機のネットワーク化による収益性の改善には対して西田さんは懐疑的(後に夏野剛さんも同様の見解を示す)
P.166 「読むべきものが無いわけではない」については異論あり。確かに書店在庫が無いものは便利だか、売れ筋だけの「駅前の本屋さん」が電子書籍に求められる姿だろうか?
P.171 ネットでは定番化の圧力が強い→ここからのリアル店舗とネットストアの相違点の考察は興味深い
P.175 マーケティングの古典的な問題が解決されていないと言うよりも、既存のプレイヤーが十分にそこに対応できていない、あるいは対応するだけのリソースを割けていない(費用対効果に合わない)のが現状ではないかと思う。そういう意味でも、パッケージ大手が新興ソーシャルと競業するのは合理的だということが分かる。
P.180 クエリーシーカーによる分析は興味深い
P.184 アクトビラがここでようやく登場するが、当初は国、そして現在も大手各社が参画しているにも関わらずインパクトは薄い。
P.186ネットフリックスABテストを紹介。方法論はネットであるべき、主導権はものづくりであるべきではない。なるほど。
・Andridマーケットの「酷さ」は独自マーケット前提だからではないか?むしろそこに利点があると考える。
P.192 「アプリの勝負はリリース後72時間」
P.201 この図は繰り返し参照したい。
P.206 ここからからイヴの時間を紹介。完成へのプロセスを楽しんでもらう。ただし余りにも完成度が低いと悪評につながる。
P.217 ウィンドウの同時展開は違法配信対策の一面も。
イヴの時間は単なるネット発アニメというだけで無く、Gyaoからニコニコに展開した緻密なウィンドウ展開があったことは注意しておきたい。このあたりは来年書籍にまとめる予定。
P.221 このあたりでライブというプレミア消費、例えばニコファーレ、ニコミュの事例、狙いもあわせて考えておきたいところ。
→またガンダムUCの劇場プレミアム上映は従来の劇場公開と異なり、プレミアムライブ的な位置づけにあることは注意しておきたい。興行収益そのものよりも告知効果を期待しているところは大きい。
私の取材の中でも「映像そのものの価値は無くなった」と刺激的なコメントがあったことを思い出す。一方で映像を巡る商品「モノ」てで儲けているプレイヤーもいる。つまりグッドウィルモデルの存在感が否応なしに高まっていると感じている。

メモ書きなので、脈絡ありませんが、本書を読まれた方、これから読もうとする方の参考になれば幸いです。

総合すると「形なきモノを売る時代」の先には「形なきモノを媒介として(相対的に価値が高まった)形あるモノを売る時代」がもうすぐそこまで来ている、というのが、私の実感であったりします。
いずれ西田さんとはまたディスカッションしたいという思いを強くしました。

企業に不満を伝えることについて

「今からおまえの名前は千だ。いいかい、千だよ。わかったら返事をするんだ ...」

千と千尋の神隠し (通常版) [DVD]

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ちょっとまだ考えがまとまりきっていないところもあるのですが、取り急ぎ。

Facebookに続きGoogle+も、「偽名?と疑わしいアカウント」を停止していることが話題を呼んでいます。

実名なのにGoogle+のアカウントが停止されてしまいました。Googleは私に改名しろと言いたいんでしょうか。 - tokuriki.com

なんとなく、徳力さんのこの記事を読んでモヤモヤとしたものがあります。

たしかに、実名で登録しているのにも関わらずアカウントを停止されては良い気持ちはしません。
自動処理で疑わしいアカウントを抽出しているはずですが、そのアルゴリズムにも改善が求められるものでしょう。
Googleの他サービスと紐付いているため、アカウント停止の影響範囲も広いわけで、ユーザーへの事前通告はより積極的に行われるべきでしょう。

ということを前提に起きつつ・・・

モヤモヤを呼び起こしたのは、たぶんこの記事の記憶が強く残っているからだと思い至りました。

UCCのTwitterマーケティング炎上事例に見る、マスマーケティングとソーシャルメディアマーケティングの境界線 - tokuriki.com

去年2月のこの記事は、Twitterを使ったマーケティングに企業が試行錯誤している状況で起こった事件を、客観的に分析し、UCCさんに対してエールを送っています。

マーケティング事業者である私が書くのもおかしな話ではありますが、今回の迅速な対応を見る限り、会社のカルチャーとしては、実はUCCソーシャルメディアを上手く活用することができる可能性が十分あるのではないかと思ったりもします。

 今回の炎上でUCCさんがTwitterアカウントを閉じてしまったり、ネットを通じた利用者とのコミュニケーションのチャネルを閉じてしまうことになってしまわないことを切に願いますし。

これに対して今回の記事では、

本名で停止されたら俺は一体どうすればいいわけ?

名前変えろと言うことですか?

(中略)

全自動で判断するシリコンバレー系の会社を、日本のマスメディアが叩くのも分からないでもなくなっちゃうなぁとか、無駄に余計なことをいろいろと考えてしまう金曜日の朝です・・・

と、かなり論調が違っているわけです。

個人的には、もちろん偽名検出のアルゴリズムなど問題は多々あることは同感しつつも、ソーシャル「メディア」について、いまアジェンダ設定するのはそこなんだろうか?たとえば、クーポンの問題や、位置情報は誰のものか、といった問題かなと思ったり、シリコンバレー系の会社って日本のマスメディアに押し並べて叩かれていたっけ?と思ったりして、たぶんその辺でモヤモヤを感じたのかなと。*1
まだ僕自身も答えは見つけられていませんが、企業に対してクレームを付けるのも、一種の対話だとすれば――特に「メディア」の冠を付けて向き合うとすればどういうアプローチが良いんだろう、少なくとも「快/不快」を超えた何かが要るんだろうな、などとなんとなく思います。

(参考)
FBでホットペッパーがスポット情報を登録しまくっている件 - hitoshi DAILY

isologue - by 磯崎哲也事務所: 日経ビジネスのPikuに関する記事について

ASCII.jp:既存iPhoneユーザーの2段階制パケット料金への移行が可に

#2011/10/01 追記
その後、こちらの件解決されたということで顛末を徳力さんの方でまとめておられます。

Google+のアカウント停止から再開までのプロセスで考える、実名と匿名の境界線の曖昧さ

*1:付け加えると、僕自身ペンネームを使っていたり、名前を間違われることに馴れていて「実名」に対して強い拘りがない、というのもあるかも知れませんが。

一取材者としての雑感(あるいは広報担当の方への切なるお願い)

ネット公開後の記事の修正というのは、とても気を遣う作業だ。大手新聞社のそれと違って、自分の場合は事前に取材先に記事を見て貰うことが多い。

もちろん、それによって記事が丸く、つまらなくなってしまうリスクもある。
けれども、そういった守るべき点については編集さんと一緒に先方と協議するようにしている。

いろいろ紆余曲折を経て記事は公開される。
それでも公開後に、各所からの反応を受けて「直して欲しい」と言われることがある。

いろいろ事情はあると思う。想定していないところからクレームが付いたということだってあるだろう。
Webだから物理的に直せるはず、という思いもあるだろう。

だから、そのあたりの事情を察して応じる(正確に言えば編集権のある編集部に修正を依頼する)こともある。
ただ、そのとき「最初の記事が間違っていたから正すのは当然の作業だ」という風には絶対言って欲しくない。

まずこの「正しさ」というのが、立場によって様々だ。端的に言えば「あなたにとって正しくても、そこで様子を見聞きした自分からすれば正しくない」ということが起こりうる。
というか、もちろん下調べして臨んでいますが、いやそれ中の人じゃないとわかんないでしょ、みたいなことも結構「調べれば分かること」などと言われたりする。
調査のコストをそちらが負担頂けるなら、そうしますが、とのど元まで出てグッとこらえる。

インタビュー取材も、イベントなどの同行取材も言わば一期一会で、短い時間に多くの情報を見聞きし記事にしている。
残念ながら双方に間違いや勘違いが起こることもある。というか、普通起こる。
紙面と違って文字数の制約が少ないWeb記事は、余すことなく要点を伝えることができる。結果として間違いが含まれる確率も上がっていく。
なので事前に記事の確認を行う。行った以上、最初の記事は先方と責任を共有している思っているし、ビジネス倫理上もそうあるはずだ。

記者は取材対象のリリースを代筆している訳では無い。
時には競合との比較など読者のとって利益のある情報をどうしても入れたい場合もある。
そういった情報を削除した記事で、注目を集めたケースというのを殆ど知らない。そうなってしまっては双方時間と労力の無駄というものだろう。
なので、これは間違いなのか、それとも「伝聞情報」として妥当なのかというのは発信者とは異なる基準がある、ということも広報をされる方には是非知って置いて頂きたいポイントだ。

ということで散文にはなってしまったが、結構この話題にはいろんなアジェンダが含まれている。

  • 事実とは何か?(真実とは存在するのか)
  • 外資NPOなど責任所在が違うところにあったり、分散している場合の広報対応とはどうあるべきか。
  • 攻めの広報か、守りの広報か。
  • 情報の軌道修正とはどこで図られるべきか。

取材ソース、取材・執筆者、編集者、校閲者などの関係者が1つ1つ判断して、表現や記述を選択していく。
なので、「間違っているから直せ」というのはやはりあまりにもそのあたりの関係者の努力や労力を無視しているものだと言わざるを得ない。
まして、それが2度、3度と及べばいくら取材対象の商品やサービス・活動が魅力的でも、読者に伝えることに対してモチベーションが下がっていくのは避けようがない。

ウィキリークスの例を出すまでもなく、リアルタイムインターネットの時代は望む・望まないに関わらず一旦出てしまった情報はもう無かったことにはできない。
魚拓なんて面倒なことをしなくても、Google検索だってキャッシュを残してくれる。(申請し認められれば消えるけれど、その間に魚拓はしっかり取られているでしょう)
冒頭に述べたように、一発だしで事前確認や修正に応じない媒体も多い。

むしろ、そんな取り返しの付かない記事の内容を云々するよりも、出た後の対応を的確に行う方がよろしいのではないでしょうか?と老婆心ながら思ったりもする。
「情報」を扱うIT企業や、それを専門とする研究者であれば尚更、そのメカニズムには精通しているはず。(と信じたい)

とはいえ、そんなお堅いことを言わないでも、たぶん、きちんと事情を説明して詫びてくれれば多くの場合は収まるわけではありますが。
ということで、ぜひ広報あるいはそれに従事する人は腹をくくって対応に当たって頂ければと、一物書きからの提言でした。

蛇足:残念な経緯の一例(特定が目的ではないため日付はぼかしてあります)

7月某日:初稿完成。先方広報担当者に確認点を記したメール送付。同日1点確認の上回答する旨一次回答有り。
4日後:追って連絡あるという事項が返信無いため、こちらから確認メール発信。その内容で問題無い旨返信あり。
7日後:記事公開
8日後:広報担当者より更に追加の修正依頼有り。確かに必要な配慮と思えたので編集部に連絡。同日中に修正反映。
9日後深夜:広報担当者より電話で3度目の修正依頼有り(主に2点)。「大至急」と気色ばむ電話だが、修正点に曖昧なところがあったので、メールでとりまとめて頂くよう依頼。
10日後早朝:別の担当の方からメールで窓口を代わる旨通達。引き続き送付された修正依頼メールでの修正箇所は10箇所を越える。こちらからは記事のチェック体制について見直しを依頼。
10日後日中:編集部と協議。編集権の問題からもさすがに難色を示されつつ納得してもらう。
13日後:出張を終えた編集担当による記事の再修正完了。結果確認した新しい担当の方から「今回の修正は適正であった(記事チェック体制の見直しについては言及無し)」旨メッセージが届いており、その真意を確かめるメールを送るが現時点では回答無し。

→こういう経緯を経てしまうと、いくら素敵なプロダクト・サービスであっても、次取材しようというモチベーションは正直失われてしまいます。また単純に顧客を含めたビジネス対応としてどうなんだろうという疑問も持ち上がります。

#2011.08.04 2:22 追記
先方より広報体制の見直しについても具体的なご連絡を頂きました。ありがとうございました。
これまで数十に及ぶ取材と記事公開を行っていますが、ここまで難渋したのは初めてではあること申し添えます。

「スマートデバイスが生む商機」セミナーを行いました

前回の記事でその概要をご紹介した新著に関連したセミナーを行いました。

『スマートデバイスが生む商機』出版記念セミナー 〜iPad 2、Android Honeycomb で変わるタブレットコンピューティングとクリエイティブビジネスの世界

書籍の執筆のため取材も行ったバンダイナムコゲームス山田大輔さん、WWDC、E3の現地取材から戻ったばかりのフリージャーナリストの西田宗千佳さんをお招きして、スマートデバイスがゲームをどう変えるのか?というテーマを起点に、ゲームビジネスの未来について考える1時間半となりました。

Twitterでは呟いたことがあるのですが、昨年末にNHKで放送された「世界ゲーム革命」という番組で、モバイルやソーシャルゲームが全く取り上げられなかったことが、ずっと気になっていました。たしかに、任天堂SCEはハードウェアの進歩を牽引していますが、肝心のソフト(コンテンツ)において、日本のプレイヤーの存在感が薄くなっています。

一方で、DeNAがNGMOCOを買収したり、レベルファイブと提携したりと明らかに「ゲーム」業界・市場の様子が一変しつつあります。

そんな問題意識がある中で、Engadgetのこの記事を読んで、これはもっと掘り下げないと、と考えたわけです。

興味深いのはこの記事で紹介されているAppleTVとiPadを組み合わせてゲームをするイメージ図と、WiiUの利用イメージがきわめて似たコンセプトになっていることです。

ソフトウェアにおいては、据え置き型・PC・スマートデバイス間のコンテンツの垣根がきわめて曖昧になり、且つハードウェアにおいてもかつてはその性能差から自然に生まれていた「棲み分け」が過去のものになりつつあるということが改めて明らかになっています。

且つ日本において海外と事情が異なるのは、2000年代前半のiモードとそのエコシステムにおける成功体験があるという点です。この成功体験をポジティブに活用できるのか、それともネガティブに作用してしまうのか、いまその分岐点にゲーム業界も立っていると言えます。(この辺りの歴史的経緯と、現状のアップストアの「産業化できない」という問題点については、夏野剛さんが「iPhone vs. Android」で詳しく語っています」)

ゲストにお招きしたバンダイナムコゲームス山田大輔さんには、バンダイネットワークスバンダイナムコグループにおいて、携帯電話向けコンテンツを担当していた会社。2009年4月にバンダイナムコゲームスが吸収)での経験から、現在の「スマホ」ブームをどう捉えているかを端的に語っていただくことができました。

このスライドにも書かれているように、AppStoreをはじめとするアプリマーケットは、「デパ地下の『巨大な』食料品売り場→試食だけでお腹いっぱい」という指摘は腑に落ちるものがあります。山田さんは、バンダイネットワークスの前は、フランスの携帯電話メーカーに勤めていた経歴の持ち主で、海外から見て当時は先端を走っていた日本の携帯コンテンツ市場と、現在のスマホブームを極めて冷静に捉えている様子が伺えました。

本著の取材後、独自マーケット「バナドロイド」を発表したのも、プラットフォーム オン プラットフォームへの布石と捉えるべきでしょう。

書籍の中では「なかなか儲からないよね、と中途半端な姿勢を続けていたら、2012年に我々は「緩やかな死」を迎えるでしょう」と刺激的なメッセージでインタビューを締めくった氏ならではの、とても濃いコメントも連発で会場をわかせていました。

続いて、ASCII.JPで「Beyond the Mobile」を連載し、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)など著書も多数持つ西田宗千佳さん。

iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏 (ビジネスファミ通)

iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏 (ビジネスファミ通)

西田さんからは「タブレットスマートフォンのビジネス構造」と銘打って、E3・WWDCの様子も交えながら解説を頂いています。

長年モバイルシーンを追ってきた西田さんは、従来型の携帯電話とスマホの相違点は「UIと通信構造(特にパケットの上限規制の撤廃)」であると定義した上で、コンテンツとそのビジネスモデルが大きく異なっている点を指摘しています。山田さんの指摘していたARPUでのリクープを狙うモデルが、コンテンツの表現力とネットとの親和性の高さを活かしながら図られていくことを改めて確認できました。

また、「ゲーム開発者が常に統計(マーケティングデータ)を参照しながら、ゲームのバージョンアップを行っている」というのも、ゲームの本質である面白さのとらえ方が変化しているという観点から大変興味深いと感じました。ファームビルでは「草むしりの回数が増えている=この作業への関心は高い」と判断して、ゲームアイテムを投入するといった例も。

最後に、デジタルハリウッド大学院で学ぶ学生(掛端俊希さん)も交え、スマートデバイスでどうゲームビジネスは変わるのか?そこをこれから目指す学生は、何を学び・身につければ良いのか、といたテーマでディスカッションを行いました。

「オリジナルの作品作りを目指したい」という掛端さんに対して、山田さんからは「ゲームビジネスもハリウッド型に転換してきている」という指摘があったのも注目しておくべきポイントです。スマホ向けの小品からスタートして人気のあるものをパッケージ向けにリバイスを掛けていくといった動きもこれから拡がっていくと考えられます。「もしもし」などとゲーム業界からは否定的に捉えられることもあった携帯電話・スマートホン向けアプリに対する認識が改められ、伝統的なパッケージゲームメーカーが、スマホ向けアプリやブラウザゲーム開発会社を買収するといった動きも加速していくでしょう。私も引き続きこの分野にも注目しておきたいと思います。

なお、7月下旬には西田宗千佳さんとセミナー(電子書籍スマートデバイスを中心に・有料)を行う予定です。
決まり次第サイトの方でも告知させていただきます。

新刊ちょっとだけ紹介「スマートデバイスが生む商機」

スマートデバイスが生む商機 見えてきたiPhone/iPad/Android時代のビジネスアプローチ」という本を出しました。本から幾つかの箇所を抜粋して内容をご紹介したいと思います。

スマートデバイスが生む商機  見えてきたiPhone/iPad/Android時代のビジネスアプローチ

スマートデバイスが生む商機 見えてきたiPhone/iPad/Android時代のビジネスアプローチ

スマートデバイスとは、スマートフォンスマホという略称を耳にすることも多くなりました)やタブレット端末などを指します。
iPad2が発売されたり、Android搭載のスマートフォンが多数発売され、その活用方法に注目が集まっているところです。
パソコンと異なり、薄く軽量で、起動が速くバッテリーの持続時間が長いこれらのデバイスは個人の生活を便利にすることはもちろんなのですが、ビジネスの在り方も大きく転換しようとしています。

実はこの本、「iPadでプレゼンを行う際のワザを紹介する」とか「タブレット端末で変わるコミュニケーションの事例を紹介しよう」とか、企画が二転三転しました。既に「○○活用術」といった本は沢山出ています。しかし、どうビジネスを変えるのか、ぶっちゃけ儲かるのか(笑)についてはまだまとまった論考がそう多くはありません。そこに集中して取り組みました。

まず書籍の中で最初に取り上げたのが、ドワンゴ取締役・慶応大学SFC教授の夏野剛さんです。
夏野さんには昨年から色んなテーマでたびたびお話を伺っているのですが、外でお会いするときにもiPadだけ抱えて登場されることが多いのです。

私のように、鞄にPCが入っていないと不安な人間からすると、「ホントに大丈夫なのか」と思えて仕方なく、今回の書籍の取材にかこつけて、ものすごく素朴な疑問をぶつけてみたわけです。

結論からいうと、「かなりの場面で何とかなる」ことと「でも一方でできないことも明確にある」と思えたインタビューでした。

その「できること/できないこと」の境界線をうまく取り払っているのが、次に取り上げたソフトバンクテレコムさんの事例です。

まだまだビジネスの現場では、Windowsが主流であり、いきなりタブレット端末に移行してしまっては、既存の業務システムと連携がとれなくなってしまいます。

そこに「仮想化」の仕組みを上手く取り入れ、簡単に言えば「iPadWindows環境にアクセスして、そのまま仕事が継続できる」仕組みを整えています。個人のレベルではリモートデスクトップWindowsにアクセスできることはよく知られていますが、支給する機器の第一候補からノートパソコンを取り払ったというのは、やはり革新的な動きだと言えるでしょう。

そして、スマートデバイスソーシャルメディアとの相性の良さを最大限活用したのが、セールスフォースのChatter。もともとは、セールスフォースの製品群の一環だったシステムが、Twitterの一般化と伴い、独立したソリューションとして歩き出す様子を語っていただきました。ビジネスモデルがフリーミアムに移行していったのも興味深いところです。

ユニクロック」で一躍有名となったビルコムさんにもお話を伺っています。実はタブレット端末を活用した施策が、事業領域の1つとして成立しつつあるというのは取材してはじめて知りました。「メディア」としてもスマートデバイスが成立しつつある、その端緒を知ることができます。

ゲームの分野ではバンダイナムコゲームスさんに、既存のパッケージメディアとの相違点を聞き、その価格差をどう捉えているのか、またグループ内でどのようなシナジーを図っているのかをかなりねちっこく聞きました。数千円の商品と、無料〜数百円のアプリとでは戦い方が全く異なること、従来の組織をそれにどう適合させようとしているのか、がある程度明らかになったと感じています。

そして「教育」。タブレットPCではなかなか進まなかった教育のデジタル化がiPadなどのスマートデバイスの登場によって急速に進むかも知れません。価格、バッテリーの保ちの良さ、コミュニケーションの取りやすさなど、その利点についてデジタル教科書教材協議会副会長でもある中村伊知哉さんや、携帯研究家としても知られる武蔵野学院大学准教授 木暮祐一さんにも語っていただいています。日本のデジタル教育、アジア各国に比べても本当に遅れていて、正直焦りを感じる取材でもありました。

そして、本書の構成とは前後してしまうのですが、シャープさんにGALAPAGOSの戦略を掘り下げて伺えたのも収穫でした。私もあちこちで書いているようにサービス、特にコンテンツのラインナップではまだまだ課題が残るGALAPAGOSですが、ハード面でAndroidベースのOSが果たした役割の大きさを知ることができました。

他にも、日本Androidの会会長の丸山不二夫さんにお話を伺ったり、iPadを回転寿司の注文端末として活用する狙いを聞いたり、スマートデバイスにまさに商機を見いだした若手企業家の想いを語ってもらったりと、てんこ盛りな内容になっています。

Chapter 1
スマートデバイス」登場のインパク
iPhone/iPad/Androidで何が起こったか?

1-1 iPadで具現化したスマートデバイスの存在感
1-2 スマートデバイスに至る系譜とiPhone/iPad/Androidの上陸
1-3 個人による使いこなし術から相次ぐ企業導入へ
1-4 iPadでたいていの仕事は片付く――夏野剛氏インタビュー

Chapter 2
業務改革を実現する端末としてのスマートデバイス
クラウド化・ソーシャル化に向かうオフィス

2-1 【ソフトバンクテレコムiPadシンクライアントで社員1人月4万3000円を削減
2-2 【セールスフォース・ドットコムスマートデバイスで加速する社内コラボレーションの価値
2-3 スマートデバイス「+α」が業務改革を成功させる
COLUMN 【丸山不二夫氏】「クラウドの恩恵」で開花するスマートデバイス

Chapter 3
対話・対面端末としてのスマートデバイス
〜コミュニケーション・チャネルの新たな選択肢

3-1 【ビルコム】売上全体の10%に成長した「ブランドマガジン」戦略
3-2 【クロスドリーム】決め手はコストパフォーマンス、注文端末としてのiPad
3-3 強力なマーケティングツールは顧客の手の中に
COLUMN 【ユビレジ】iPadが「月々0円からのPOSレジ」に

Chapter 4
エンターテインメント端末としてのスマートデバイス
〜メーカーに求められる「サービス」への対応

4-1 【バンダイナムコゲームス】アプリストアで始まった「経験したことのない戦い」
4-2 【シャープ】自らサービスまで手がけるハードウェアメーカーの挑戦
4-3 メーカーに「真のネット対応」を迫るスマートデバイス
COLUMN 【NEXT FUN】「百花繚乱」Androidタブレット

Chapter 5
デジタル教科書・教材としてのスマートデバイス
〜学びのデジタル化が生む新たな市場

5-1 急がれる魅力的な教材作り――中村伊知哉氏インタビュー
5-2 【武蔵野学院大学】先行する韓国、日本の大学におけるデジタル教育の今
5-3 学びの場にも訪れるクラウド化・ソーシャル化の波
COLUMN 【リンドック】「ソーシャルラーニング」を大学教科書で目指す

Chapter 6
スマートデバイス導入期に向けて
イノベーションの本質とプラットフォームへの対処

6-1 商機の源泉はコンピューティングの「拡張」
6-2 発展途上のプラットフォームとの向き合い方
6-3 競争と協調の中からビジネスを発展させるために

正直タイトルからは、ちょっとこの中身が想像しづらい本ではありますが、よろしければ手に取ってみていただければ幸いです。また、近々この本に関するイベントも予定しています。